アン・リー:終わることのない夢

      2017/01/18

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【アン・リー監督が「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した277日」で二回目のアカデミー賞(監督賞)を受賞したのを受けて,このエッセイが再び注目されています。このエッセイは,リー監督が2006年にアカデミー賞受賞後に書いたもので,私(Irene Shih)が英語に翻訳したものです。】

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Ang Lee: A Never-Ending Dream

※趣味で日本語に訳したものです。日本語訳自体はオリジナルで、一部意訳しました。

この下からが翻訳文です。

1978年,映画を勉強しようとイリノイ大学に出願した際,私の父親は猛烈に反対した。父は統計を持ち出し,こう言った。「毎年5万人のパフォーマーがブロードウェイに200しかない役を争っているような業界だぞ」。しかし私は父の反対を押し切り,アメリカ行きの飛行機に乗った。これは後まで、父と私の関係をギクシャクしたものにしてしまった。その後20年間,私たちの会話は100回にも満たないのだから。

数年後,私は無事に大学を卒業したが,父が反対した理由をようやく理解した。中国からやってきた新人が,アメリカの映画業界で成功を収めるなんて聞いたこともなかったからだ。1983年からの6年間はまさに苦難と絶望の連続だった。映画のクルーや編集者のアシスタントとして多くの時間を過ごした。何より辛かったのは、30以上の配給会社を周って脚本を売り込んだが、尽く拒絶されたことだった。

この歳、私は30歳を迎えた。中国の孔子の言葉に、「吾、三十にして立つ」とあるが、私は自分自身さえも養えていなかった。どうすればいいのだ?チャンスが巡ってくるのを待ち続けるべきか、それとも映画製作の夢を諦めるべきなのか?この苦しい時期に、私の妻は計り知れないほどのサポートをしてくれた。

私の妻は、大学時代の同級生だ。彼女は生物学専攻で、卒業後は小さな製薬会社の研究室で働いていた。彼女の収入は慎ましいものだった。当時私たちには既にハーンという名前の長男が生まれていていた。私は自分の罪の感情を和らげるため、家事をすべてやった。自身の研鑽を深め、映画の研究をし、脚本を書くことに加え、炊事、掃除、育児も全てやった。毎晩夕食を準備したあと、私は息子と一緒に家の前の階段に座り、妻の帰りを待ったのだ。言うなれば、私たちの英雄的な狩りの名人が、獲物(収入)を獲って帰ってくるのをハーンと一緒に待っていたのだ。

このような生活を送っていた自分には、男としての威厳は皆無だった。ある日、妻のの両親が妻に「これを資本に中華レストランを始めるように」、と、まとまったお金を渡したそうだ。そのレストランからの収入で家族の生活が少しでも楽になるようにと。しかし私の妻はお金を受け取るのを拒否した。このやり取りのことを知った後、私は数日間眠れない夜を過ごした。そしてついに、私の使命はこの(映画製作という)夢にはないのだと決断し、現実を見据えることにしたのだ。

その後、重い心を引きずりながら、私は近くの短期大学のコンピューター・サイエンスのクラスに履修した。就職がなによりも大事だったので、私が既に持ち合わせていたスキルの中で、コンピューターに関するものだけが私の就職に有利にはたらくと感じたからだ。その後の私は不安感に沈んでいた。妻は私のいつもと違う態度に気付いており、ある時私の鞄に挟んであったクラス・スケジュールを発見した。彼女はその夜は何も言わなかった。

翌朝、妻が仕事に出かけるために車に乗り込む直前、彼女は私の方を振り返ってこう言った。「アン、あなたの夢を忘れてはダメよ」。

そして、その私の夢――現実という海に飲み込まれてしまっていた夢――が人生に戻ってきた。妻の車が走り去るのを見ながら、私はクラススケージュールを鞄から取り出し、ゆっくりとビリビリに破り捨てた。

その後、私はついに自分の映画台本のための資金調達に成功し、自分の映画を撮り始めた。そしてさらに少しすると、私の映画の何本かが国際的な賞を受賞するようになった。苦しかった時代を振り返り、妻は私にこう告白した。「私は常に、あなたに必要な才能は一つだけと信じていたの。それは映画製作の才能よ。コンピューターの勉強をしている人は既に沢山いるのだから、アン・リーはそこには必要とされていない。もしあの金の(オスカー)像を望むのであれば、あなたは自分自身の夢にすべてを捧げなければならないのよ」、と。

そして今日、私はついにその金の像を勝ち取った。私の忍耐と妻の計り知れない犠牲がついに報われたのだと思う。そして今日、私は今まで以上に確信していることが一つある。それは、これからも映画製作を続けていかなければならない、ということだ。

わかるでしょう、それが終わることのない私の夢なのです。

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